羽化
それから。
午後になっても相変わらず吉田は元気がなかったが、元来几帳面で負けず嫌いな性格の彼女は、仕事だけはしっかりとこなした。
そして仕事が終わり、わたしが帰路につこうとしたところで、和美がぴょんぴょん跳ねながらわたしたちのところへ来て言った。
「よーしーだっ! きーいちゃった、みーいちゃった」
「はい?」
そうして、相変わらず肩落とし気味の後輩にそっと耳打ちする。
瞬間――「ぎゃー」と、吉田は吠えた。
そして、
「なんで、誰が、どうして!」
と、和美の肩をつかんでゆすった。
和美はすごく意地悪な、でもえくぼをこしらえたあどけない表情で、
「さぁ? どうしてでしょう」
とそっぽをむいた。
わたしだけがひとり取り残されていて、いささかの居心地の悪さを感じていると、今度は和美、わたしの目に猫のような人なつっこさで焦点を合わせる。
「由加里、聞いて聞いて!」
和美がそう言うと、吉田はまたも「ぎゃわー」と叫び、両手を振ってわたしと和美のあいだに割って入った。
わたしが、「吉田、ペンギンみたいだな」なんて思いながら見ていると、半分泣いたように丸い童顔を赤くさせて、吉田はわたしの方に向き直り、
「なんでもないですから! 石野さぁん、中川さんなんとかしてくださいぃ!」
わたしにすがりついた。
「なに?どうしたの」
どうしたものかわからず、わたしはとりあえずこんなことを言ってみた。
すると吉田は、
「どうもこうも、なんでか中川さん、昨日私がふられたの知ってて、それでみんなに言っちゃうとかゆうんです!」
半べそのまま、自身ですべてご披露なされた。
その向こうでは、和美が腹を抱えて笑っている。
直後に自分の失態に気が付いた吉田は、ハッと口に手を当てるなんて漫画みたいな粋なリアクションを見せたあと、今度こそ本当に泣き出したのでした。