羽化
6
その次の日から、吉田は変わった。
見た目が、とかではなくて、たぶん意識が変わったんだと思う。
肩の力が抜けたっていうか……。
相変わらず仕事はくそがつくほど真面目にやっているし、ミスには厳しいままだけど、なんていうのか、その様子は、今までよりも楽しそうだった。
それはなんだか知らないけど、わたしにとっても嬉しかった。
そして、七月吉日。
吉田はわたしの手を離れ、新人講習へと出ることになった。
新人講習。
わたし自身も二年前に体験した、新人社員の登竜門。
簡単にいえば、規模の大きめな各部署の見学会のようなものだ。
おおよそひと月かけて、我が社での仕事というものについてのきちんとした理解を得るために行われる。
この時期に講習が行われる理由としては、会社に入った直後では、まだなにひとつ勝手が掴めないため、三ヶ月間、割り振られた部署にて、おおよその仕事内容を理解した後に行われる、ということなのだ。
仕事の流れ、どこの部署ではどのような動きをしていて、個々の部署での仕事配分を理解していてこそ、講習で見て回った際にしっかりとした理解を得られる、という方針らしい。
わかりにくければ、例えば時計で思い描いてもらえるといいかもしれない。
時計の五は長針なら二十五、しかし短針なら五のまま。
なぜなら、短針は十二で、長針・秒針は六十で分けられているからだ。
当たり前のことだけど、この仕組みを知らなければ、いくら時計を持っていたとして、時刻を知ることはできない。
役割を知っていて、ようやくすべてを見わたせる。
だから今の、ぼんやりとでも自分の役割を知り始めたこの時期に新人講習が行われる。
「緊張してる?」
新人講習前日。
わたしは吉田に訊いた。
「楽しみです」
吉田は微笑んで答えた。
仕事を楽しめている。
それは彼女にとって、とてもよいことだと思った。