羽化
誕生日当日の朝。
会社の最寄りの喫茶店にて。
わたしが手渡した交換日記を受け取った貴司は、こんなことを言った。
「由加里ちゃん、これ、もう終わりにしよう」
「どうしたの? 書くのおっくうになっちゃった?」
とくに深く考えずわたしが問うと、貴司は首を横に振ってそれを否定した。
「日記だけじゃないんだ。僕らの関係も、……終わりにしよう」
わたしは口に含んだアイスコーヒーを吹き出しそうになって、やっとのことで飲み込んでから、「ふぇ?」と、見事に間の抜けた裏声を発した。
まるで、嘘か冗談以外であるはずがないといったふうに。
だけど、続けて貴司が言ったのは、
「今日も、ごめん。君のところへは行けない」
やはり、わたしを突き放したがっているような台詞だったわけで……。
「なに言ってんの、貴司?」
わたしにはそう言うより他なかった。
……だって、今日は彼の誕生日だ。
その日に、恋人としてこれ以上ないほど大事な日に、こんなこと、冗談だって許し難い。
なのに、彼はそれを冗談ですませる気すら見せないのだ。
それなら、私はこれ以外の如何なることばを紡ぎ出せるというのか。
「ごめん。今日……、ううん、今から、別れてほしい」
柔和ないつもの口調とは違う、やけに冷めた口調で、何故そんなことを言うのか。