羽化
その日の仕事終わりにオフィスの隅の休憩所で吉田とカップコーヒーを飲んでいると、同じく上がったらしい和美がやってきて、煙草らしきものを口にしながら言った。
「いやぁ、新人育成も楽じゃないよねえ、ジッサイ」
それに吉田がむくれてつっかかった。
「どうもすみません。手のかかる新人で申し訳ないですね」
「あ、いたの吉田」
明らかに気付いていたくせに。
いじわるな和美である。
しかし威勢よいのは和美だけではない。
新人にして吉田も負けてはいない。
「います。中川さん、社内禁煙ですよ」
とはいえ、さすがは年の功。
口八丁じゃ敵わない。
「浅いな吉田。五時からここだけは喫煙オーケーなんだよ」
和美の華麗な切りかえし。
「え、そうなんですか、石野さん」
吉田は意外そうな顔でわたしを見る。
「和美が言うならそうなんじゃない?」
それでわたしはコーヒーをちびりとやりながら、他人事のように言った。
「えー。でも初めて聞きますよ。ここで煙草なんて」
「五時までオンナのアンタはねえ」
どこまでもいじわるな和美。
……ガキかおのれは。