羽化

「石野さん、聞いてます?」

不意に吉田がわたしを名指した。

ああ、わたしも会話の勘定に入っていたのか、とそのときやっと気が付く。

「聞いてる聞いてる」

苦笑しつつそれに応える。

「若い貴重な時間をこんな仕事にとられちゃったら親に申し訳がたたないです」


他意がないのはわかっている。

軽口のつもりで吉田は言った。

そんなことは百も承知だった。

だけれど次の瞬間、わたしの口からは、思わずこのような台詞が飛び出していた。


「自分はミスしないみたいに言うよね吉田は」

わたしは変わらず笑顔だったが、吉田はかすかに、でも確かに、眉をひくつかせたのが見えた。

「だって私、ミスとか……してませんもん」

と、吉田本人は言う。

そりゃそうだ。

それが目につかないよう、新人は先輩にフォローされているんだから。

本人が当たり知らないのも仕方のないことだといえる。

……だけれど今のはやはりわたしが悪かった。

それが新人育成ってものなのだ。

大人げなかった。

見れば和美も微妙な顔でわたしを見ている。
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