羽化
「ゴメン。ちょっと言い方悪かったね。ミスは誰にでもあるでしょってこと。まぁ彼の場合、確かにちょっと度を超してるけどね、でもそれいったら吉田だってわたしだって、ま、縁起でもないけど、いつ大きいポカやらかしたって不思議じゃないじゃない? だからね、それいつまでも責めたって始まらないよ」
会話の華をもいだ。
一度もぎ取られたそれは、もうもとのようにはできない。
「さて、そんじゃそろそろ帰ろっかな」
居づらくなったのか、和美はジュースをぐいっと飲み干すと、休憩スペースを出て行った。
「石野さん。私、べつに吉水さんのこと責めてたわけじゃないですよ」
「え?」
「なんでもないです。コーヒーごちそうさまでした。あと、これやっぱり言わないと気が済まないんで言っておきますけど、教育的指導はやっぱりきちんとあなたからしてあげないと、あの人可哀相です。若い貴重な時間、それを割いて仕事して、正当な評価されないなんて私、納得できないんです」
わたしに振り返った吉田は、丸い童顔を紅潮させ、さっき同じようなことを言ったとき以上に、口をしかめていた。
「あ……」
それで、この子、知ってるんだ、と思った。
貴司が不当に責任を押しつけられていること。
今日のミスが本当は課長の指示であったこと。
そして……。
吉田は休憩所の椅子から立ち上がると、とっくに飲み終えたコーヒーのカップを自販機の隣のゴミ箱に捨て、
「お先です。お疲れ様でした」
と、わたしを残して行ってしまった。
休憩スペースにひとりきりになったわたしは、
「……青いなぁ」
と、誰にともなくごちて、カップに残った最後のひと口をごくりと飲み込んだ。