野獣は甘噛みで跡を残す
 白石君がどんな漫画を描いているのか正直物凄く気になるけど、さすがにもう一度聞くわけにもいかず………

 白石君の様子を伺う。

 白石君は頬杖を止め、立ち上がった。

「悪いんだけどアタシ仕事があるから、気分が落ち着いたら勝手に帰ってくれる?」

「え、あ、ごめん!」

 慌てて私も立ち上がる。

 と、その拍子に膝の上に置いていたショルダーバッグが軽い音を発て、足元に落ちた。

「もう帰る。色々とありがとう。お世話になりました」

 もういいと言われていても改めて頭を下げると、白石君は「どういたしまして」淡々と返し、「それじゃあ気をつけてね。さようなら」淡々と言い、さっさと背中を見せるとリビングから出て行ってしまった。

 本当に、勝手に帰れと。

 仕事のこと、あまり突っ込んで聞かないほうがよかったかもしれない。

 ご両親以外には誰にも言っていないと言っていたくらいだから、読んでみたいなんて言わないほうがよかったのかも。

 私が興味を示した途端、ぴしゃりと壁を作られてしまったし、まるでこれ以上は話したくないとでも言うように行ってしまった。

「………でもまあ、もう会うこともないし」

 そう自分に言い聞かせるように呟いて、ショルダーバッグを拾い、肩に掛ける。

 聞こえるかどうかは分からないが「お邪魔しました」と、声を掛けた。
   
  
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