【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
きれいごとはいらない side:要人
正論なんて、其処にはいらないと本能が叫ぶ。
ずっとこのまま。
大切だとキツく感じる時間だけを大切にしたいと。
彼女はずっと泣いていた。
出逢って、"あの日"…俺が彼女を愛し始めた時からずっと。
もしかしたら、その前から彼女は一人傷付き、一人でひっそりと泣いていたのかもしれない。
それなのに、俺は…そんな彼女につけ込むかのように、少しでも自分の傍に居させたくて、全ての権力を使って、手元にいてくれるよう仕向けた。
…多分、彼女が思っているような男ではないだろう。
子供じみた感情に支配され、愛を得たくて我を通す。
それでも、きれいごとなんてそんなものはくそくらえだった。
彼女をもう一度笑顔にさせられるのは自分しかいない…そう高を括っていた。
だけれど、彼女の心の闇は思った以上に深く抉られていて…。
修復の出来ない所まで…限界をとっくに超えていたんだ。
この腕の中から、すり抜けた彼女の顔は酷く憔悴していて、一瞬言葉を失った。
その隙を突いて、彼女は俺の傍から居なくなってしまった…。