【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
「綾小路、いるか?」
コンコン、とまた控えめにノックをするも、返事がない。
変だと思い腕時計にチラリと目をやれば、まだ終業時間には少し早かった。
俺の鼓動がわずかに動揺して震える。
ガチャリッ
ドアノブが壊れてしまうくらい勢いを付けて、執務室に入ると、何か違和感を感じた。
…彼女の私物が何も、ない…?
そう思ったのは何かの間違いだろうか?
けれどそこには、彼女の姿も温もりも、愛用している香水の香りさえも存在しなくて…俺は混乱した。
まさか。
そう思い当たり、急いで自分のデスクに舞い戻る。
と、其処にはまた目に痛いくらいの真っ白い封筒が置かれていて、彼女のキレイな文字で俺の名が記されていた。
それを静かに手にとって、中身を目にした自分の手が徐々に怒りで震えていくのが分かる。