【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
何処までも何処までも堕ちていく思考。
駄目だ、とちゃんと分かっていても。
心のどこかでいつも考えていて。
心に刻まれているのに、薄くなる色彩。
それがこんなにも苦しくて、辛いだなんて…。
私はぎゅうっと一度だけ瞳を閉じてから、またパソコン画面を見つめた。
込み上げてくる涙は、眼精疲労の証だ。
けして、悲しみの涙なんかじゃない。
けして、未練の涙なんかじゃない。
メーラーを開きっ放しの私のパソコンは、触れずにいてそのままスクリーンセーバーになっていた。
午後からの会議の為に、少し頭を冷やそう。
そして、その序にメイクも軽く直して来よう。
そう思って、私はポーチを掴んでパウダールームへと向かった。
福利厚生で色んな待遇がある中、数の少ない女子社員に対する待遇は心地よい程気配りが利いていて、素晴らしいと言わずにはいられない。
こうして、女優鏡のある大きめのパウダールームがある所も、私的にはお気に入りだ。
だからだろうか?
どんなことがあったとしても、この仕事を離れたくないと思うのは?
それとも、もう自暴自棄になっているだけなんだろうか?
「恋人に捨てられた女」
は、現代社会の中で前を向いて生きていてはいけないんだろうか?
最早、何が正しくて、間違っているのかさえも分からない思考回路は焼き切れる寸前。
一度堕ちた色は、墨汁が半紙に染みていくように、じわじわと色を吸い込んでいく。
「全く、何がしたいのかしらね、私は…」
大きな溜息。
それでも、きちんとメイクを直して、私は鏡の中に自分に呪文を掛ける。
「いい?忍。笑うの。笑って強くなれば、いい」
何度も言い聞かせた言葉。
年季の入ったその言葉は、あの日…あの雨の日から私の中に生まれた言葉だった。