【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
私が求めているのは、ただ一人。
あの日…私を雨から介抱して、抱き締めてくれた人…その人だけ。
色んなことが重なり、その人の素性を知る術はどこにもなかったけれど…それでも、もしもう一度出会うことが出来たのならば、その時は心からお礼が言いたい。
だって、大事な愛車をずぶ濡れにしてしまったようだし、意識を飛ばした私を近くのホテルまで運んでくれて、名前も言わずに去っていってしまった人だから。
ホテル代やらクリーニング代やら、請求されても仕方がないと思うのに。
その人は、あの日から一度たりとも私の前に姿を見せることはなかった。
だからだろうか?
まるで恋人を待つような気持ちで、その運命に繋がるであろう時間を待ち望んでいた。
もしも、が欲しい。
もしも、その人に出会うことができたのなら…その現実が欲しい…。
勿論、「If」は、夢のまた夢かもしれない。
だけれど、それくらい、許されてもいいんじゃないか…そうとも思う。
気持ちは、あちこちに飛び交う。
蝶のような優雅さを持って…。
金色と銀糸、それから瞳を潤ます鮮やかで様々な色。
それらが音もなく堕ちた場所から…私は、天を仰いで夢の続きを求めていた。
ぐっと、息を飲むことすら忘れたままで…。
瞬間を逃さぬように瞬きさえ押さえ込んだまま…。