【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜

「…会議、もうあと1時間程で始まります…。それ迄に気持ち切り替えといて下さい。失礼します」


そう、噛み砕くように呟くと、私はデスクからスクッと起き上がり、髪を直して部屋を出た。


とくん
とくん


知りたくない。
知られたくない。
だけど、動き出してしまいそうな想い。

まだ引き返せる。
まだ、このラインなら。


「はぁ…もう、やりにくい…」


私は、彼がいる間は殆ど使わない、社長室へと直結したこじんまりとした執務室へと戻る。
そして、そこで鏡を見ながら、口紅を塗り直した。
ちりっとした痛みを感じた場所…さっき彼に触れられた所には、小さなうっ血の痕。
私はそれを見てきゅうっと眉間にシワを寄せ、それが隠れるようにまとめていた髪を解いた。


「…ほんと、バカ殿のご乱心かっての」


呟いて、机の上に置いておいたミネラルウォーターを口に含む。


でも…。
どうしても、最後まで振り切れにないのは何故だろう?
そんなに情に深いつもりはない。
だって、そんなもの…あってもなんの得にもならない。
それは、身を持って経験済みだ。

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