【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
第二章『携帯越しのノイズ』
無限連鎖 Side:要人
夢かうつつか…。
偶に、「あの日」の出来事は偽りだったんじゃないかと思うほど。
この手で触れた体は小刻みに震え、何も映さない瞳には、大粒の涙が今にも溢れんばかりに湧いていて…とてもそのまま放置して行けるような状態じゃなかった。
ざらりとした冬の、無情にも思える冷たい雨。
どうして、あの場所に居合わせたのかは、神のみぞ知る。
愛車に乗って、クライアントとの会合を終え帰宅する途中だった。
普通ならば、社長たるもの我が物顔で運転手付きの社用車に乗り込むのだろうけれど、俺は人に命を任せることも、そういう無駄な人件費を使うことも大嫌いだった。
別にケチっているわけじゃない。
俺のお抱えの運転手になるよりも、その分優秀な人材に育てばいい…そういう気持ちからだった。
それを、誰かに分かって貰おうとは思わない。
自分勝手で傲慢…そう勘違いされていてもいい。
「俺」は「俺」、だ。
一企業の社長ではあるが、ただの前野要人という一人の人間であることは間違いない。
「氷の帝王」…?
人の評価なんて、どうだって良かった。
あの日、彼女と…あんな風に会うまでは。