【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
「俺が、怖いか…?」
そう聞いたのは、どうしてだろう…?
もしかしたら、彼女の中にある俺という存在位置を確かめたかったのかもしれない。
でも、彼女は応えなかった。
それをいいことに、俺は忘れるなという言葉と共に、彼女の手のひらへとキスを落とした。
手のひらへのキス…それは懇願だと耳にしたことがある。
あれは、確か海外でバカンスを過ごしていた時、同じベッドで寝ていた女が睦言で言っていた言葉。
『カナメ、私が欲しいと言って頂戴?』
そんなものに、興味がなかった俺は、ただ、その女の太ももに噛み付くようなキスを残した。
自分にとってベッドの中の時間なんて、そんなものただの支配欲の塊の一つでしかなく、欲情の波に引き摺られることなんて一度もない。
そんな中、その場所にキスをしたのは、その意味合いをふいに思い出して、いたんだろうか。
気付いたら、そんな真似をしていたから。
心の底から、こいつが欲しい…そう、思ったから。
けれど、意識を失ってしまった彼女の中には、俺という存在は何処にも残らなかったようで…少しの落胆と一緒に芽生えたのは、反骨心にも似た、恋慕。
彼女の中の秩序を乱して、この手に収めたい。
そんな想いでいっぱいになった。
人に対して、こんな風な感情を抱いたことは一度たりともなかったと、思う。
だから、戸惑いもあったけれど…それよりも強かったのは、真っ直ぐな…熱情だった。