【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
誰だ、彼女に「仮面を付けた氷の女」なんて名付けたのは。
目の前にいる、綾小路忍、という存在は仮面なんて付けていない。
何時だって、子供のように無防備で、とてもポーカーフェイスなんて言葉は似合わない。
そして、氷の女…というのもどうせパッと見のイメージでしかないんだろう。
その証拠に、今の彼女からは冷たさなんて微塵も感じられない。
それは、俺だから?
無性に自惚れたい気持ちでいっぱいだった。
「まぁ、いい。…今夜は俺の為に空けとけよ?」
ニヤリ
微笑むと、彼女はこれみよがしに嫌な顔全開で、
「だから、嫌だって…!」
と反発してくる。
だから、俺は最終手段として、言葉を投げる。
…別に他の方法でだって、いくらでも操れるだろうけれど…。
「社長命令」
「う……。わ、分かりました。…でも、何かしたらすぐ帰りますからね!」
俺の言葉に、少し狼狽える所がまたなんとも可愛らしい。
外見を、カッチリとした大人な雰囲気を作ってるだけに、こういうやり取りの中で彼女が赤くなったり青くなったりするのは、堪らなく愛しいと思う。
それが根っからの魅力なんだな…と、そう思った。