【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
「しゃ、…社長には、関係ありません!」
なんの躊躇いもなく、1ミリの疑いもなく近付いてきた彼女にぐっと距離を詰めると、顔をまた朱色に染めてそう叫ばれた。
「もう、からかわないでください!」
「別にからかってなんかないさ」
俺だけに、狂ってしまえ。
俺だけの為に、心を乱し浅い呼吸をして欲しい。
そう思うことは、果たしていけないことなのか…?
「じゃあ、なんで…」
彼女の揺れる瞳の中に映る俺は、俺でさえ見たことのない人間だった。
「お前の素顔が見たい」
「…っ」
ストレートな言葉を敢えて口にするのは、すこしばかりの仮面を剝がして、その殻に包まってしまった彼女の心を解く為。
俺が構えば構うほど、頑なな彼女の心は右に左に揺れていく。
今はそれだけが、俺の中で…至福だと言っても過言じゃない。