【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
記憶の住人 Side:要人
歪んだノイズ。
頭の中に巡っていく。
愛じゃないのに、まだ愛だと叫んで。
幾つもの上っ面だけ、仮面を被った「恋愛」という遊戯を幾度となくプレイしてきた。
あの…何も望むことのなかった頃、携帯越しに絡んだ言葉は…一体なんの為のものだったのだろう…。
求めていたのは、何時だって心からの安らぎと…癒やし。
何処までも、堕ちて行く。
気の遠くなるくらい、遥かなる意識の向こう側。
彼女から受ける、言動の一つ一つに…こんなにも身を灼かれる自分がいる。
まるで、赤の他人のように振る舞う彼女に、どうして思い出せないんだ?と…。
どうして、忘れてしまったんだと問い正したくなる気持ちを煙草をぎゅっと灰皿に押さえつけることでなんとか制して、今夜のシミュレーションをしていく。
とりあえず、最高潮に彼女の心をときめかせられるような、そんなアイテムが欲しい。
それは一体何だろうか?
思いを巡らす。
ホテル最上階から見下ろす夜景?
両手いっぱいのバラの花束?
それともダイヤをあしらった眩い指輪?
いや。
どれも、彼女の気持ちを捕らえられる所か激怒してそのまま背を向けてしまいそうだ。
じゃあ、どうしたらいい?
どうすれば、彼女を気持ち良くさせられるんだ。
じりっと痛む親指の爪の先。
気付けば、昔からの癖で強く噛んでしまってた。
「折角褒めてもらった場所なのに、自分で傷付けていたら意味ないな…」
そう呟いてみてから漸く、なんて自分はこんなに必死になっているのか、と笑いたくなった。