【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜

始業ベルがなる40分前に、全ての身支度を整え、デスクに付くのが当たり前の事になったのはいつからだろう?
ラッシュの時間に当て嵌まらないことは嬉しい限りだけれど、最初の頃はかなりキツかった。


あぁ…先輩の言葉が未だに頭の中にこだまする。


「秘書たるもの、必ず30分前の事前行動をすべし!」


フォロー役として、時にお姉さんのように…時に鬼のように。
そう言って、ビシバシ扱いてくれた先輩は、この間…涙、涙の寿退社をして行った。
先輩のお相手は、なんとフランスの方で、結婚を基に向こうで生活するそうだ。
初めて聞いた時は驚いたのと羨ましいので、なんとなく複雑だった。

それで…この課内で後に残っているのは、ほぼ男性ばかりになる。
この社会、「秘書」というのは一般的に世間では女性ばかりで華やかだと思われがちだけれど、実際は男性の方が圧倒的に数が多い。
元はグループ秘書として配属された筈なのに、私は何故かなんの手違いか…個人秘書として、社長直属になってしまい…。
先代の秘書をしていた、先ほどの寿退社した中江先輩に扱いてもらった他は女性社員との接点が殆ど無い。
なので、必然的に同期・同僚は男性のみ、だ。


そんな事を思いながらカバンをデスクの下に置くと息を吐く。


とりあえず…。

9時の始業に向けて、パソコンを優雅に立ち上げている場合ではない。


「はあ。もー…来週のスケジューリング組まないと。てか!なんだこの書類の山は!」



朝から叫ぶ私の声は、第一秘書執務室の中に大きく反響していった。

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