【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
俺はそう言うやいなやピッと隣の執務室に繋がれている内線を押す。
すると、怪訝そうな、少しだけ苛立ったような彼女の越えが聞こえてきた。


「如何致しましたか?社長?」


いかにもつんとした彼女の姿が頭に浮かんで、思わず笑顔になってしまう。
あからさまではないものの、どうしても出てしまうんだろう嫌味な感情と、それに伴うワントーン低い声。
やっぱり不機嫌さが滲み出ていて、なんとも愛おしくなる。
いつもは絶対に見せない彼女のその様子は、とても刺々しい。
その痛みを持たない毒を持った言い回しが、俺とジュリアンとの関係を訝しげに思っている節として窺えて、俺は心の中で微笑んだ。


もしかしたら、このまま行けば彼女はすぐにでも俺のもとへと落ちてくるかもしれない。

けれど…。


「…コーヒーでも?」

その淡い期待をバッサリと切り捨てるような口調。
あぁ、これは本当に完全に自分の方へと落とすには時間が掛かる。
そう、確信した。


狂おしいくらいに心が悲鳴を上げる。
ダイレクトに彼女の心へと想いを注げるならば、どれだけいいことか。
それが叶わない分、この感情は胸の中で燃え膨れる。


恋しいよりも愛しい。
愛しいよりも切ない。
切ないよりも苦しい。

…まるで堂々巡りの迷路の中にいるみたいだ。


『子供じゃあるまいし』

自嘲気味に心のなかで呟いた。


本当はもう少しだけ彼女の気持ちを引き出したかったけれど、あまり構うはこういう時得策ではないことくらいわきまえている。
だから、俺はあっさりと諦めて、ここは敢えて見を引くことにした。


「あぁ、コーヒーはいい。とにかく此処に。話がしたい」

「……分かりました」
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