【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
翌日。
出社してすぐに、コーヒーと共に白い封筒を彼へと差し出した。
震える手をなんとか制して。
それを目にした彼は、怒気を含んだ声で一言。
「…で?どうして、こうなる?」
と、聞いてきた。
私は震える声を隠して短く答える。
「…社長の前で、失態をおかしてしまったので…」
その言葉に彼はほんの少し眉をひそめてから、
「それで、これを?」
と、短く言い返して来る。
「はい」
少しの沈黙の後、居た堪れなくなって、きゅっと手を握り締めていると、その真っ白い封筒を眺めていた彼が深い溜息を吐いた。
「…残念ながら、却下だな」
そう言うと、彼は折角何度も書き直した辞表をビリビリと破いてゴミ箱の中に捨ててしまった。
…私が昨日流した涙の跡を消すかのように…。
「でもっ!」
「でもも、何もない。綾小路。お前には俺の秘書を続けて貰う。いいな?…話はそれだけだ、下がってくれ」
有無を言わせない口調。
不機嫌そうに歪められた彼の顔には何処となく陰りが見える。
そんな所にもときめいてしまう自分を心底呪いたかった。