【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜

『綾小路』


彼はさっき、私をそう呼んだ。
だからもう…名前を呼んでもらえることはないだろう。
そして、私が彼を名前で呼ぶことも…。


それが堪らなく切なくて、私はぎゅうっと拳を握った。

こんな時、今まで彼を通過していった女性ならば、どうしていたんだろうか?


きっと、みんな大人の余裕で、流し込んでたださよならを告げていたんだろう…。



しっかりしろ、忍。
負けるな、忍。

泣くんじゃない、笑うんだ。



私は手鏡を手にして、無理やり笑顔を作ってから、滲む涙を必死で身体の奥底に押し込んだ。


彼が私を傍に置くことを望むなら、私は完全に想いに蓋をしよう。


…もう二度と、泣かないよう。
…もう二度と、誰かに期待して気付かぬよう…。


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