【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
ドクンドクンと、心臓が跳ねる。
今までこんなことはなかった。
あぁ見えて仕事とプライベートはきっちり分ける人だ、彼は。
それなのに…このざわめく感情はなんだろう?
そうやってそわそわしていると、壁一枚隔てた向こう側から、なんとも軽快な笑い声が微かに聞こえてくる。
してはいけないと思うのに、私の耳は敏感に彼の言葉をキャッチした。
「はははっ。分かった、分かった。マスミ。今回は折れてやる。あぁ、本当だ。ん…俺も愛してるよ…」
サーッと引いていく血と、妬け狂いそうな胸の音。
やっぱり。
やっぱり、そうだ。
期待なんてしちゃいけなかったんだ。
彼には私以外にも想い人がいる、んだ。
私はあんな風に優しく穏やかに愛を紡がれたことはない。
いつも強引に奪われるように、まるで嵐に巻き込まれるような激しさはあったけれど…。
それもきっと、彼にとってはなんてことのない感情で…。
そんなことを考えると胸が疼く。
あぁ、私はこんなにも、彼を愛してしまってる。
その事実が心の中に重く響いて、そのまま胸元を強く掴んだまま暫く立ちすくんでいた。