【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
馬鹿な私。
どうして泣くんだ、ここで。
もうちょっと上手く、冷静に立ち回ればこんなことにならなくて済んだかもしれないのに。
どうして、一年も前のことを心に引き摺って、彼の腕からすり抜けてしまったんだろう。
毎日、鏡の前で唱え続けてきた呪文は粉々に砕かれて、後ろから深淵に突き落とされた気分だった。
矛盾が愛を、破壊する。
愛したいのに、愛されたいのに…。
その先を、その手を掴むことに躊躇した。
「要人さん……」
歪んだ声で、彼の名を呼んでみても、届くわけがない。
私の心は…完全に彼へと陥落している。
けれど、欲している心を、彼へと差し出せなかった。
悪いのは私の方。
彼の気持ちに、気まぐれてもいいから、一瞬でも向けてくれたその愛情に、臆病になったのを必死で隠して…。
「………好き……」
誰も振り向かない夜の空の下で…私の呟きは痛い程切実で、苦しいくらい儚く散った。