【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
がっしりと腰に回された手に力を込められて、更に体をぎゅっと引き寄せられる。
私は、此処が自分のマンションのエントランス前だということを思い返し、なんとか身を捩って離れようとするけれど、全く歯が立たず身動き一つ出来ない。
「か、要人さんっ」
「言ったろう?二度と離さないと。…だから、逃げるなよ、忍…」
「でも…」
「お前の過去なんていくらでも受け止めてやる。だから、全部引っ括めて、俺の腕の中に落ちて来い」
「…………っ」
静かで熱い、キスの嵐に体が歓喜で震える。
こんなにも私を必要としてくれる彼に対して、私の心はもう、グズグズに溶かされてしまっていた。
だから…。
「…じゃあ…昼間の、マスミさんって誰、ですか?」
と、素直にモヤモヤした気持ちをぶつけるしかなかった。
「マスミ…?あぁ…なんだ、もしかして妬いていたのか?」
鼻と鼻が擦り合うような距離でそう問われ、顔を赤くすると…くつくつと楽しげに笑われた。
「マスミは、俺の三つ上の姉だ。まぁ血は繋がっていないがな。ただ、仕事上のパートナーでもあるから、いちいち機嫌を取らなければならない…全く気疲れする相手だよ」
そう言うと、彼はガシガシとらしくもなく髪を乱して、忌々しく舌打ちをした。