【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
「…へぇ…忍の匂いがする…な」
「…変態発言は、止めて」
「良い意味でだ。ここはお前の聖域だろう?だから、愛しい…」
ぱちん、とリビングのスイッチを入れた所で、後ろからキツく抱き締められる。
アップにしていた髪と、そのまま無防備にさらけ出していたうなじへとキスを落とされ、体が…心が、まるでまっさらな水面に一雫落とされ、そのまま波紋を描くような振動を伴って、彼の体へと堕ちていく。
「…かなめ、さ…っ」
「忍…好きだ…愛してる…」
忘れたかった。
忘れられなかった、彼の温度、彼のキス。
「待って…まだ、ここ玄関……です…ん…」
「だめだ。待たない…」
噛み付かれた首筋に、舌を這わされ涙が滲む。
「…泣く程嫌か…?」
「……ばか…。要人さんの、ばか…」
違う。
言いたいのはそんな言葉なんかじゃない。
なのに…。
「泣くな、忍…。お前に泣かれると、弱い…」
「だって…っ」
愛されたい。
愛したい。
ずっと、そう願ってた。
足らない心を満たして欲しいと。
心許なく揺れるばかりの子供なままの私ごと。
全て掻っ攫って欲しかった。
彼は後ろから覆い被さるように私のことを包み込んで、少し強引に私の顔を捕らえると不自然な態勢のままで、名前を呼んだ。
「忍…もう、十分だ。いいんだ、もう…。全て吐き出せ、俺に。どんなお前でも、俺は…」
「…っ。それ以上言わないで…?お願い。もう"あの日"の私に触れないで…」
その悲痛な呟きの後に、ほんの少しだけ沈黙が流れる。
私はまた泣き出しそうになり、彼の腕をきゅっと掴んだ。
「今を…今だけを愛して…?要人さん…お願いだから…」
「忍…」
「要人さんの好きなように…お願いだから…」
そう、囁いて…今度は自ら強引にキスを強請った。