たとえ、涙が頬を濡らしても。



堤防を自転車で漕いでいると、今日はいつもの場所に冬汰の姿が見えた。


急いで近くまで行って自転車を止めて、冬汰の元へと走った。



「冬汰!」


『澪春』


「4日も会えなかったから心配したよ」



ここ4日、冬汰がいないこの堤防で絵を持ってきたからにはと、18時までの1時間だけをまた絵に使ってきた。


だから後、もうちょっとで完成する。


ひと工夫…加えたい。



冬汰の隣に座ると、いつもあるギターがないことに気が付いた。



「あれ、ギターは?」


『あぁ、弦が1本切れてるから今日は持ってきてない』


「そっかぁ」



ギターの音が聴けないのは少し残念だけど、冬汰の隣は本当に落ち着く場所だ。


何も話さない沈黙の時間ですら、心地いい。


持たれても…いいかな?



ちょっとだけ、冬汰の肩に持たれてみた…



『眠い?』


「…うん。ちょっとね」


『じゃぁ、膝貸す』



言われるがまま、冬汰はあたしの頭を膝に置くと優しく髪を撫でてくれた。


…付き合ってないのに。


これじゃまるで…



冬汰の左手の人差し指を右手で握る。


ダメだ。好きが止まらなくなる…


いつまでもこの時間が続けばいいのに。




─────…………



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