たとえ、涙が頬を濡らしても。
顔を洗って、服を着替えて、朝ごはんを食べて、歯を磨く…
そして鏡に向かって思いっきり笑う。
これがいつもの日常。
清潔感ある白のワンピースを着て縦鏡の前でクルリと一周する…
いつもこの縦鏡の前で今日の服装が可笑しくないか確認して、ニッコリ笑う。
だけど、何故か今日はうまく笑えなくて…
「澪春、仕事行ってくるから、家出るならちゃんと鍵閉めて行きなさいよ!」
「はーい、行ってらっしゃい」
そう言うとお母さんは玄関でヒールを履いて、家を後にした。
お父さんはとっくに仕事に行ったし。
一人っ子のあたしは夏休みとかになると、家に一人になることが多い。
さて、机の上に画用紙と絵の具を並べて改めて自分の絵をジッと見る…
もうちょっと雲に影を付けて…
たんぽぽの綿毛を飛ばして…
絵が引き立つように…
冬汰にあたしのありったけの想いを伝える。
冬汰は気付いてくれるかな…
あの日見た夕焼け空に、初めて会った日の桜の木。
いつもの堤防の場所って。
あぁ、そしたら後ろの落書きの字…
消さなくても…いいかな?
「ははっ、まさかあたしが恋するとはね」
おかしくなって思わず独り言が出てしまう。
そして、まさか自分がこれから告白を考えているだなんて…
人生、何があるか分からないなー。