たとえ、涙が頬を濡らしても。



お通夜が終わったあと、少し落ち着いた澪春さんを焼香に連れて行くと、また泣き出した。


遺体となった兄貴の顔を見て、澪春さんは現実なんだと受け止めたんだろう…



「冬汰…絵、完成したんだよ…?
ねぇ、今日見せる約束したじゃん…ねぇ…」


『澪春さん…』



きっと、楓も着ていたら澪春さんと同じようにまた泣き崩れたんだろう。


楓も昨日、冬汰と離されたあと体調を一気に崩して嘔吐したぐらいだ。



「…ひくっ…ひくっ」


『澪春さん、もう行こ?
ちょっと、休もうぜ…』



身体の力が入っていないフラフラな澪春さんを抱き抱え、お通夜会場を後にして、人気のない静かな公園のベンチに座らせた。


この人に俺に出来ること…

そんなのもうねぇって、分かってる。


分かってるけど、ほっとけねぇよ。





だって、兄貴が好きな人なんだろ?





─夏翔 side end─







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