たとえ、涙が頬を濡らしても。



持って行ってももう、意味の無い絵を持って、学校を後にして自転車で堤防を目指すと、堤防が見えた先に一人の人影が見えた…



「冬汰…?」



うぅん。そんなわけない…


そうであったら、どれだけ嬉しいか。



近くまで来て、自転車を止めて堤防を下るとそこには同じ高校の制服を着た…



「夏翔くん!?」



その声にパッと顔を上げると夏翔くんは驚いた顔をしていた。



『澪春さん?』


「どうしてここに…って、制服」


『あれ?澪春さんも同じ高校だったのか』


「夏休みに会ったから…わからなかったね」



あたしと冬汰が同い年だったから、夏翔くんは一つ下の学年か。


まさか同じ高校に通っていたとは思いもしなかった。


茶髪にシルバーピアス、絶対教育指導の先生に注意されてるでしょうに…



『手紙、読んだのか?』


「うぅん…まだ、読めなくて」



夏翔くんに会うのは、あの日以来。


まだ、手紙を持つ手が震える…


読みたくても、読むのが恐い…



『…俺でごめんな。』


「なんで?」


『ほんとは兄貴に会いに来たんだろ?』


「…まぁね。
もう会えないって、分かってはいるんだけど、ここに来たらまた会える気がしてさ」



今でも冬汰と過ごした日々が、夢だったように感じる時がある。


ここであたしの絵を褒めてくれたおかげで、あたしは絵をコンテストに出すと初めて決めた。


このあたしがコンテストなんかに挑戦しようと思ったなんて、自分でも信じられなかった。


だけど…もう出す気がなくなってしまった。


冬汰が居なきゃ…意味無い。



「冬汰に会いたいよ…」


『泣くなよ…って言ってもまだ無理だよな』


「…ごめん…ひくっ」


『今は泣けよ、思いっきり。
いっぱい泣けばいい。』



その優しい声に、涙が溢れて…


夏翔はあたしの頭を撫でて、優しい抱きしめてくれた。



「冬汰と同じ匂い…」


『ははっ、そりゃ同じ柔軟材だからな』


「冬汰ぁぁぁー…ひくっ」




ダメだ。


ますます夏翔くんを冬汰に感じてしまう。






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