たとえ、涙が頬を濡らしても。
『なぁクッキー、一つ貰っていい?』
「うん」
夏翔の胸元から離れて、涙でぐしゃぐしゃの顔を見られたくなくて、後ろを向いて必死で涙を拭う。
冬汰のことで何回泣いたか分からない。
だけど、冬汰はあたしの涙は望んでないよね。
『いただきます』
「どうぞ…」
後からクッキーのサクッという音が聴こえた。
日頃から料理もままならないから、お菓子作りなんてもってのほか。
『美味い』
その声に振り向くと、夏翔と目がバッチリと合ってしまい下を向いた。
「まぁ、あたしは教えてもらった通りに作っただけだから」
『下向くなって。
澪春さんが心を込めて作ったことに変わりはねぇだろ?』
「…うん。」
ゆっくりまた夏翔を見ると夏翔は笑った。
『だから、兄貴にもちゃんとお供えしねぇーとな!』
…夏翔はどうして笑えるのだろう。
あたしなんて、泣いてばっかりなのに。
「夏翔は泣かないね…」
『俺だって、泣きたくなったけど。
楓に澪春さんがいっぱい泣くから、それを宥めるのが俺の役目だなって思ってよ』
そう、夏翔は白い歯を見せて笑った。
夏翔は冬汰と違ってよく笑う。
その笑顔は太陽のように明るくて、人に元気を与える笑顔のように感じた。