たとえ、涙が頬を濡らしても。
スポンジで冬汰のお墓を綺麗に洗っていく…
ふと、お墓の後ろの文字が目に入った…
没年 8月28日
たった、16歳という若さでこの世を去ったんだ。
12月19日…
冬汰の誕生日…
デートに誘えなかった…
「冬汰、自分のこと全然話さないでしょ?」
「へ?」
楓さんは俯くあたしに話しかけてくれた。
「病気のことも、一切話さなかったんでしょ?
怖かったんだろうね…
自分を知ってもらっても、自分を知れば知るほど、あなたを苦しめるんじゃないかって…」
そう楓さんは冬汰の墓石にそっと触れた…
あたしが冬汰を知ったら…苦しむ?
「楽しい思い出で在りたかったんじゃないな?」
「楽しい思い出…」
「澪春さん、きっと冬汰との思い出を思い出す度に、泣いてるんじゃない?」
「…」
…そうだ。
ずっと、ずっと、そうだった。
楽しかった思い出のはずが、いつしか悲しい思い出として記憶に上書きされてしまっている。
あんなに…楽しかったのに。
「あたし…」
『ほら、洗い流すぞ』
この場の空気を変えるかのように、夏翔はお墓に水をかけた。
「ごめん。
泣かないで?
ほら、綺麗に拭いていこ?」
「…うん。」
楓さんに綺麗な雑巾を渡されて、涙を零さないように上を向く…
涙のせいで青空が潤む…──
大丈夫…
そして涙を零さないように我慢して、一生懸命墓石を拭いた…