たとえ、涙が頬を濡らしても。



そこからたくさん、冬汰の生い立ちや病状を聞いた。


中学は何とか通えたけど、高校に上がってすぐに、病状がいつ急変してもおかしくないって言われたこと。

そして、あたしと出会うまでに自ら道路に飛び込んだこともあるって。

何とか車のブレーキが間に合って、怪我なく済んだと聞かされた…



「冬汰はね、あなたと出会って本当に変わったのよ。
初めてギターを持って家を出た時、びっくりしたけど、また次の日も次の日も出かけているみたいだったから」


「…」


「この絵、澪春さんが描いたんですってね」



冬汰のお母さんは1枚の絵を取り出した。


ベゴニアの絵だ…



「冬汰、何度もこの絵を見て嬉しそうに笑ってたわ。」


「え…」


「私が見てほしいのは、この裏なの」



裏返しにした画用紙に小さな字で何か書かれていた。


よく見てみると冬汰の字で



澪春、お前がこれを見たってことは
まだ泣いてばっかりなんだな?

いいか。

俺はお前のことは死んでも愛してっから。

だけどな…俺のことは2番目でいい。

1番目は一番近くにいて、触れられて、お前のずっとそばに居て、一番お前を愛してるあいつでいい。

だから、もう俺のことで苦しむな。

たとえ、涙が頬を濡らしても…
立ち止まらずに、笑って前を向けよな。

と。



「冬汰は澪春さんのことが、ものすごく好きだったのね。
亡くなってすぐ、この絵を見て泣いちゃって…裏返しにした時に見つけたのよ。」


「冬汰…」



もう言葉に出来ない感情が込み上げて、涙がボロボロ頬を伝った…


隣で俊稀が優しく、あたしの背中を摩ってくれた…



「今日、渡したかったのはこれなのよ。」



するとお母さんは小さな箱を取り出した。





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