たとえ、涙が頬を濡らしても。



そんなこと…



『俺がお前を死なせてたまるかよ…
俺はお前を絶対守るから。』


「じゃぁ、ここは…」


『生と死の狭間の世界だよ。』


「生と死の狭間…」



つまり、生死をさ迷っているってこと?


目の前の冬汰の目は真剣そのものだった。


死んで…ない?


じゃぁ



「赤ちゃんは!?」


『二人とも、俺が守る…』


「でも…」


『澪春はまだこっちに来るな…
お前には未来がある。明日がある。
な?元気な子ども…産んでよ』



すると、冬汰はあたしの頬に手を触れた…


その手が暖かくて、懐かしくて…

また涙がボロボロ頬を伝った…



冬汰…


ずっと前のあたしなら、ここで死にたいと思っただろう。

冬汰と一緒にこの先を居られるなら、他に何もいらないとさえ思っただろう。


だけど…



「あたし…まだ死にたくない。
やることたくさんあるよ…ひくっ」


『澪春…よく言ったな?
その意志が大事だったんだ。
澪春が少しでもここで人生を終えたいと思ったら、もうあっちの世界には戻れないんだ。』


「…うぅ」



冬汰…



『だから、泣くなよな?
たとえ…涙が頬を濡らしても…』


「立ち止まらず、笑って前を向く!」


『ははっ、よく覚えてんじゃんか…
なら大丈夫だ』



冬汰はそう笑って、あたしの涙を拭ってくれた。


そして頬に優しいキスをされた…



『頬なら許せよ…俊稀』


「…っはは」



頬なら…か。




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