たとえ、涙が頬を濡らしても。



何かに、夢中になるって…すごく素敵。


冬汰はギターに。

俊稀は棒高跳びに。

依知花はお菓子作りに。


私は…?


絵に、夢中になれてる?



『描かなきゃ、進まねーよ?』



スケッチブックの上で止まったあたしの手の上に、冬汰が手を重ねてきた。


大きな手で、あたしの手なんて簡単に包み込んでしまう。



「そうだよね」


『あーもう!
落ち込むんじゃねーよ…』


「あ、ごめん!頑張るからさ!」



そうヘラヘラ笑ってみせると、重ねていた手が今度はあたしの頬に触れた…



『俺はお前の絵が好き。』


「うん…」



そんな真っ直ぐみつめられて、真っ直ぐそんな言葉を言われたら…



『だから…』


「だから?」


『…んー、やっぱなし。』


「えー!?気になる!!」


『あーもう、今日は帰る。じゃあな』



そうギターケースに閉まって帰ってしまった。



「ムッ、でも…またね!」



冬汰のやつ…気になるって。


そっと、冬汰に触れられた頬を触る。






「ははっ!」



一人で声を出して笑ってしまう。


その後、触れられた場面を思い出して、ほんのり熱くなる頬を両手で触る。


恥ずかしい…





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