たとえ、涙が頬を濡らしても。



やっぱり、冬汰には抱きしめてもらえない。


私がいくらぎゅっと抱きしめても…


ゆっくり冬汰の胸から顔を上げて起き上がり、冬汰の横に腰を下ろした。


もう夕焼け空はだんだん薄れて、暗がりが広がってきていた。


静かで、どこか生暖かい風が吹くそんな夏の風。



『暗くなる前に、帰れよ』


「そうだね。
ねぇ、夏休み…えっと、高校は夏休み期間なんだけど、8月中とかも…堤防来る?」


『なに、そんなに会いたいの?』



そうまたクスクス笑われてしまった。


毎回、あたしばっかり聞いてるもんね。



「もう!」


『行くよ…暇つぶしに。
だいたい、5時過ぎぐらいに』


「やった!
あたしも毎日とかじゃないけど、雨の日以外とか…用事がない限り行く!」


『りょーかい。
ほら、早く帰れよ?
今日は歩きなんだろ?』



あ、自転車じゃないんだった…


朝、俊稀の自転車がパンクして渋々、俊稀は歩きでいくことになったから、ならあたしも歩こうかなってなったんだった。


ここから家まで15分程度だし、距離的には近い。



「うん。
冬汰も気をつけて!
じゃぁ、またね!」



手を降っても、振り返しては来ないし。


「またね!」って言っても、返事はない。



歩く度、何度も何度も振り返るあたしと違って、冬汰は振り返りもしない。



このもどかしい距離、なんとかならないかな?





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