たとえ、涙が頬を濡らしても。
ギターを弾いている冬汰はまだあたしに気付くことなく、静かに自転車を止めて、後から冬汰の目を伏せてみた。
「だーれだ!?」
『誰だって、澪春しかありえないだろ』
そうクスクス笑ってくれた冬汰。
「ははっ、確かにそうだね」
『あれ、香水付けてる?いちご…か』
「あ、分かった?
ちょっと降ってみたんだけど…大人すぎたかな?」
この前、浴衣を買った時に小さな小瓶に入った香水が気になって、試しに使ってみた結果即買いしてしまった。
でも、夏祭り当日付けていくのを忘れてしまい付けるタイミングを探していた。
『うぅん。澪春に合う』
「良かったー」
冬汰の右隣に座り、鞄から描き始めているコンテスト用の絵のページを開いた。
木を何にするか迷った結果、桜はありふれているから止めにしようと考え、普通の緑の葉っぱの木を描くことにした。
まだ、下書きの段階だからラフ画を練っているところだけど…
この下書きが終われば、あとは塗るだけだから作業が一段と早くなるのに。
「今の段階だとありふれてる。」
冬汰が隣でゆっくり、優しいメロディーを奏でているから、落ち着いて物事が考えられそう。
だけど、その音が心地よくて…
寝てしまいそうになる…