セカンド・ラブをあなたと
「結婚、したんですよね?でも昼間だし、コーヒーくらいなら誘ってもだいじょうぶですか?」

気を遣える人なんだな、って思った。私は一緒にいることを学校関係者に見られるほうが誤解されそうで気になるのに、河野先生は既婚者とふたりってことが気になるんだ。

高校の話ができそうな期待もあって、まだ荒天でもないし、時間も早いし、お茶くらいならって思った。
「だいじょうぶですよ」
学校から少し離れたカフェに入って、ふたりともコーヒーを注文した。

正面に座って失礼のない程度にしっかり見た。
キリッとした目元、たいてい機嫌よさげに微笑む口元、髪はサラッと額にかかっている。今風の若者。
教職だけど、格好はさすがに若い先生。黒に近い灰色のジャケットが似合ってる。
背も高かったよね。180くらいあったんじゃない?
この人の高校生時代…?

河野…河野…と思い出そうとしたんだけど、やっぱり無理だった。
ひとりだけ、名前を知らないまま、可能性を考える人はいるんだけど、違ったら失礼だし…。
コーヒーを置いた店員さんが行ってから謝った。

「ごめんなさい。委員会か何で一緒でした?」
「宮川さん陸上部で、俺はサッカー部だったから、校庭でもよくすれ違ったりしてるんだけど…」
敬語じゃなくなった。

「学年は?」
「俺のが1個下」
年下…。やっぱり、あのときの…。

「もしかして、あのときの?」
「思い出してくれた?」

あのときの、というのは、靴箱で知らない男子に声をかけられた放課後のこと。もう卒業間近だった。
何かの用事で遅くなってて、周りには誰もいなかった。
「俺と付き合ってもらえませんか?」
聡くんと付き合っていた私には、正直気まずいばかりで、相手の名前もきかなかったし、顔も覚えてなかった。

この人だった?印象すら重ならない。少なくとも身長はこんなじゃなかった。

「あのときはびっくりしてしまって、よく覚えてなくて…ごめんなさい」
「誠意を込めてフッてもらいました」
笑ってそう言われて、なんと返せばよいのか…。

「存在だけでも覚えてもらえてたんだからいいよ」
彼は肩をすくめてにっこりした。
「10年ぶりに会えて、びっくりしたから声かけたんだ」
「すぐわかったんですか?」
「苗字変わってたから、最初はわからなかったけど、ちゃんと顔見たらすぐわかった」
恨まれてるわけではなさそうでよかった。
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