君を愛していいのは俺だけ
「やっぱり気を悪くしたよね。勝手に別れといて、今さらって感じだろうし」
伸ばしてきた時と同じように、そっと手を引いた彼が力なく微笑んだ。
どうしてそんなことを言うの?
デートをしてくれて嬉しいのに。
再会するまでずっと聞きたかったことを、少しでも話せてホッとしてるのに。
今の彼を知りたくて、勇気を出して部屋にまでついてきたのに……。
「……勝手だよ、陽太くんは」
「そうだよな……ごめん」
「今さらなんて言わないでよ。私だって、会いたいって思ってたんだから」
想いが溢れて、涙腺が緩む。
悲しくなんてないのに、どうして泣きたくなるんだろう。
驚いた顔で私を瞳に映してから、彼はひとり分の距離を保ったまま私の手に触れた。
「少しずつでいいから、今の仁香のことを教えて。俺のことも知ってほしい」
見えなかった彼との心の距離は、思っていたよりも近くにあったのかもしれない。
これから少しずつ。
空白の七年間も、今のお互いのことも共有していけたらいいな。