君を愛していいのは俺だけ

「社長、今よろしいですか?」
「どうぞ」

 他部署の打ち合わせを終えた彼をつかまえたのは、彼の直近のスケジュールがすべて埋まっていたから。
 おそらく私がMDとして携わる最後の企画について、修正が必要だった箇所を説明し、納得してもらった。


「じゃあ、また」
「……あのっ!」

 怒らせてしまったのなら謝ろうと思っていたのに、彼は携帯で誰かと話しながら上階へ戻ってしまった。


 どうしたら普通に接してくれるんだろう。
 突然呼びだされて抱きしめられても困るけど、業務外の話が全くできないのもさみしい。
 おかげで、時間や場所を問わずに彼のことを考えるようになってしまった。


「はぁ……」

 自分でもわかる深いため息を漏らす。
 滝澤さんは向かいの席から私を一瞥したけれど、特にこれと言って話しかけてこない。

 桃子ちゃんの想いに負けて、人生初の社内恋愛をしている彼に、私の今の悩みを聞く暇はないだろう。
 散々渋っていたくせに、付き合いだしたらすっかり彼女の虜になっているのだから。


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