半透明のラブレター
「……サエもきっと、そういう人に出会えるよ。もしくは、もう、出会ってるかもしれないね」
意味深に笑うおばあちゃんの言葉は、今の私には現実味がなくて、なんだか遠い話のように思えた。おばあちゃんは、曖(あい)昧(まい)な表情の私の頭を撫でて、キッチンへと消えてしまった。
おじいちゃんの話を聞いて、ますます私はおじいちゃんのことが好きになっていた。もし、生きていたなら、おじいちゃんからもっといろんな話をいっぱい聞けたのかな。だったら、聞いておけばよかったと、今更ながら、少し悔やんだ。
おじいちゃんがいつも座っていた、縁側のロッキングチェア。なんとなく、今でもそこにおじいちゃんが座っているような気がした。その瞬間、ふわっと、まるで風のように、昔の風景が鮮明によみがえってきた。ブルーグレーの瞳は、いつも本に向いていて、その奥では、ミルクティー色のカーテンが、ゆらゆらと揺れている。
そうだ、日に透けると、おじいちゃんはときどき半透明に見えたんだ。……その儚さも含めて、日向君に似ていると、そう思った。雰囲気とか、落ち着いた声とか、静かな笑い方が似ているのだ。何より、あの、ブルーグレーの瞳と、突然ふっと消えてしまいそうな、彼がまとっている空気が似ている。
あれ、なんだろう。どうしよう。今、すごく、会いたい。日向君に、会いたい。突然それは、波のように私を襲ってきた。無性に会いたくて仕方がない。胸の中がなんだかむず痒くて、私はソファに倒れ込むように座った。翔君の座っていたソファーに顎を乗っけたら、近寄るな、と、クッションを投げつけられた。しばらくウンウンうなっていたら、翔君の兄である歩(あゆむ)君に、どうしたの? と聞かれた。
「……今、急に会いたくなった人がいて、なんか苦しくて」
歩君は複雑そうな顔をしてから、じぃっと翔君の方を見ていた。翔君も翔君でいぶかしげに眉根を寄せている。なんだか気まずくなった瞬間、突如頭に痛みが走った。
「オモチャ取られたみてぇーで気に食わねぇー。うぜー」
言葉づかいが悪過ぎる……。こんなんで高校行ったら一体どんな不良に成長してしまうのか心配だ……。
うなだれるように、ぺたりと机に頬をくっつけると、ひんやりとした感触が広がった。もやもやとした感情が渦を巻いている。歩君は、そんな私を柔らかく見下ろして、口を開いた。
「それって、どんな人なの?」
私はゆっくりと瞳を閉じて、“その人”を思い浮かべてみた。落ち着いた優しい声と、真っ黒な細い髪とは対照的な透けるほど白い肌……それから、ピアニストみたいな長い指。人一倍優しくて、人一倍誰からも遠くて、でもなんだかほっとけない人。最近私の頭の中のほとんどを支配していて、胸の奥の奥をぎゅっと苦しくさせる人。彼は一体私にとってどんな存在なのか、どう説明したら一番しっくりくるのだろう。
意味深に笑うおばあちゃんの言葉は、今の私には現実味がなくて、なんだか遠い話のように思えた。おばあちゃんは、曖(あい)昧(まい)な表情の私の頭を撫でて、キッチンへと消えてしまった。
おじいちゃんの話を聞いて、ますます私はおじいちゃんのことが好きになっていた。もし、生きていたなら、おじいちゃんからもっといろんな話をいっぱい聞けたのかな。だったら、聞いておけばよかったと、今更ながら、少し悔やんだ。
おじいちゃんがいつも座っていた、縁側のロッキングチェア。なんとなく、今でもそこにおじいちゃんが座っているような気がした。その瞬間、ふわっと、まるで風のように、昔の風景が鮮明によみがえってきた。ブルーグレーの瞳は、いつも本に向いていて、その奥では、ミルクティー色のカーテンが、ゆらゆらと揺れている。
そうだ、日に透けると、おじいちゃんはときどき半透明に見えたんだ。……その儚さも含めて、日向君に似ていると、そう思った。雰囲気とか、落ち着いた声とか、静かな笑い方が似ているのだ。何より、あの、ブルーグレーの瞳と、突然ふっと消えてしまいそうな、彼がまとっている空気が似ている。
あれ、なんだろう。どうしよう。今、すごく、会いたい。日向君に、会いたい。突然それは、波のように私を襲ってきた。無性に会いたくて仕方がない。胸の中がなんだかむず痒くて、私はソファに倒れ込むように座った。翔君の座っていたソファーに顎を乗っけたら、近寄るな、と、クッションを投げつけられた。しばらくウンウンうなっていたら、翔君の兄である歩(あゆむ)君に、どうしたの? と聞かれた。
「……今、急に会いたくなった人がいて、なんか苦しくて」
歩君は複雑そうな顔をしてから、じぃっと翔君の方を見ていた。翔君も翔君でいぶかしげに眉根を寄せている。なんだか気まずくなった瞬間、突如頭に痛みが走った。
「オモチャ取られたみてぇーで気に食わねぇー。うぜー」
言葉づかいが悪過ぎる……。こんなんで高校行ったら一体どんな不良に成長してしまうのか心配だ……。
うなだれるように、ぺたりと机に頬をくっつけると、ひんやりとした感触が広がった。もやもやとした感情が渦を巻いている。歩君は、そんな私を柔らかく見下ろして、口を開いた。
「それって、どんな人なの?」
私はゆっくりと瞳を閉じて、“その人”を思い浮かべてみた。落ち着いた優しい声と、真っ黒な細い髪とは対照的な透けるほど白い肌……それから、ピアニストみたいな長い指。人一倍優しくて、人一倍誰からも遠くて、でもなんだかほっとけない人。最近私の頭の中のほとんどを支配していて、胸の奥の奥をぎゅっと苦しくさせる人。彼は一体私にとってどんな存在なのか、どう説明したら一番しっくりくるのだろう。