イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「なんて酷い! ごめんなさい! セシルばかり酷い目に遭わせて――」

「大丈夫よ、お姉さま。ルーファスがすぐに来てくれたから」

「ああ……っ! ありがとうルーファス様!」

涙目でシャンテルに見つめられて、ルーファスは参ったように微笑む。

大切な言葉を遮られてしまった。けれど、それでよかったのかもしれないと、ルーファスは妙に落ち着いた気持ちになった。
ここで愛を告げたとしても、例えお互いの気持ちが同じ方向を向いていたとしても、未来のないふたりにとっては苦しいだけだ。

シャンテルに続いてフェリクスとルシウスも部屋に飛び込んできた。
周囲の荒れた惨状にぎょっと視線を投げながら、部屋の奥にいるセシルたちのもとにかけ寄ってくる。

「セシル様!」

「無事ですか!?」

ふたりは近づいて初めてセシルの手足に施された拘束と着衣の乱れに気づき、ハッと表情を歪ませた。
フェリクスがすぐさま走り寄り、手足を縛るロープを解くと、ルシウスがすかさずベッドの上の毛布でセシルをくるんだ。

ルーファスはふたりに向けて、視線をわずかに厳しくする。

「ダンテ侯爵は?」

「側近の男を隣の部屋に拘束してあります」

「念のため、そこに倒れている男も縛っておけ。あとで話が聞き出せるかもしれない」

ベッドの奥でいまだ卒倒している男を視線で差し示す。
フェリクスは、セシルの腕を縛っていたロープで、今度は倒れている男の手足を縛った。

「……話をつけに行こう。二度とこんな真似をさせないために」

全員の決意に満ちた視線が重なる。
ルーファスはセシルを抱きかかえて隣の部屋へと向かった。そのあとをシャンテルたちはついていく。
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