イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「お姉様、ルシウス様……これはいったい……」

混乱するセシルをそっと背中から抱きしめて、シャンテルは囁く。

「ずっと計画していたのよ。だって、想い合っている男女が結ばれないなんて、見ていて気持ちのいいものではないわ」

今度はルシウスがセシルの脇に膝をついて、そっと手の甲に口づけた。

「セシル様。心優しくて可愛らしい私の妻。けれど、貴方の心が兄のルーファスに向いているのは、どうしようもない事実です」

「それから、ルーファス様がセシルのことしか見ていないのも、ね」

くす、と耳もとで笑みをこぼしたシャンテルが、呆然とするセシルにもわかりやすいように付け加える。

「だからね、私たちはこのドレスを用意したの。ルーファス様と結婚するのが私だというのなら、セシル、あなたが私となってしまいなさい。ルーファス様と愛を誓うのに相応しいのは、あなたなんだから」

セシルの頬に自分のをぶつけて、シャンテルが微笑んだ。
セシルに似せたメイクを施したシャンテルは、いつもよりもずっと幼く、無邪気に見える。

「……本気で言ってるの……?」

「本気じゃなかったら、こんな仰々しいドレス用意しないわ」

「嘘……そんなこと、できるわけない」

「できるわよ。まだこの国の誰も私たちのことをろくに知らないのだから、入れ替わったって、気づかない」

「じゃあ、お姉様はどうするの!? 私の代わりになって、ルシウス様と結婚するとでもいうの!?」

シャンテルはきょとんとした顔でルシウスの方を見た。視線に応えるようにルシウスは笑って、シャンテルの肩を抱く。
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