イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「心配は無用ですよ。シャンテル様は私が必ず幸せにしてみせます。……正直言って、初対面だったという意味では、セシル様もシャンテル様も、私にとっては一緒ですし」

初対面、という言葉にセシルは眉をひそめた。
ルシウスとは仮面舞踏会の夜に会っているから、けっして初対面ではないはずなのに――

「……でも、私たちは以前、舞踏会の晩に――」

「ああ、あのとき言ったことは、すべて嘘です。あなたの心を掴みたくて嘘をつきました。ごめんなさい」

ルシウスは悪びれもせず、とんでもないことをさらりと笑顔で言ってのけた。
その嘘に、セシルはどれだけ悩まされたと思っているのか。

「セシル様が今も昔もずっと慕い続けているのは、ルーファスですよ」

隠し切れぬ想いを突きつけられて、セシルの心は大きく震える。

どんなに想いを寄せても、結ばれることなどないのだと思っていた。

三度目の仮面舞踏会の夜、攫われた自分を助けに来てくれたルーファスに、想い焦がれていた仮面の君の姿が重なった。
それは確かな恋心。
けれど、見返りを求めてはならない。ルーファスと婚約するのは姉のシャンテルだし、自分にその権利はない。

「私は……ルーファス様と一緒になる資格なんて……」

自分は、次女である。その上、ずっと男として育てられてきて、女性としての振る舞いのひとつも身についていないふつつかものである。
姉のような美貌だってない。

こんな自分が、あの大聖堂の祭壇でルーファスと並び永遠の愛を誓うだなんて、許されるわけがない。
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