イジワル騎士団長の傲慢な求愛
十日後。
今度はシャンテルとルシウスの結婚式が近づき、式を控えたシャンテルは一足早くフランドル家の屋敷に転居してきた。
姉妹水入らずで再会を祝福し合う中、セシルの近況を聞いたシャンテルは驚きの声で叫んだ。

「なにもないの!?」

ガチャンと、ティーカップが音を立てて、中に入っていた紅茶がソーサーにこぼれ落ちた。

「しーっ!」

慌ててセシルは人差し指を口もとに当てる。
庭園の一角にあるティースペース、盗み聞きする者もいないだろうが、けっして口外してはならない内容であるため、思わず周囲を見回して誰もいないことを確認する。

「信じられない。結婚して十日も経つのに、夫婦の関係がなにひとつないなんて」

「だから、しーー!」

シャンテルの大きな声に、セシルは思わず顔を赤らめる。

「普通はね、初めての夜に体を重ねるものなのよ。それを断ったってあなた……」

シャンテルにとってはよほど常識を逸脱した珍事だったらしい。沈痛な面持ちで額に手を当てている。

「だって、式も突然のことだったし、心構えも出来てなくて」

「あなた、ルーファス様のこと愛してたんじゃないの!?」

「そ、それはっ……」

愛している。セシルのその気持ちに揺らぎなどない。けれど……

「は、初めてなのに、怖いじゃない!」

以前姉に聞かされた話だと、相当身体に無茶をすると聞く。その話がセシルの心に不安感を植えつけていた。
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