イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「ルーファス様に任せれば大丈夫よ。とにかく、早く謝りなさい」

「それが……」

あの日以来、ルーファスは政務に忙しくなってしまい、夜遅くまで仕事をしており、セシルの部屋に来れない日々が続いているのだ。
聞くところによると、雨が少なく作物が不作であるとか、山に賊が出没して国交に支障がでているとか、一部の地域で流行り病が猛威を奮っているとか――それらの緊急対応に時間を割かれているらしい。
とはいえ、今となっては、忙しいだなんて口実で、セシルを避けているような気さえしてくる。

シャンテルは、ふと表情に影を落とし、声を潜めて囁いた。

「セシル。あなた、正妻だから大丈夫だなんて、甘いこと考えてないわよね?」

「……どういう意味?」

「いつまでもルーファス様の心が自分にあると思ったら大間違いよ。言ってしまえば、これは政略結婚なんだから」

シャンテルは屋敷の正面玄関の方を指さした。たまたまそこには政務中のルーファスの姿が見えた。
相変わらず精悍な立ち姿、周囲に臣下を携えており、どうやら来客を見送りにきたようだ。

「あの、ルーファス様の隣にいる女性――」

「ああ。政務秘書官の方よね。とても優秀な方だと聞いたけれど、彼女がどうかしたの?」

政務に女性が就くことは割と珍しい。ルーファスは出身や性別に関わらず、優秀な人材を起用すると話には聞いていたのだが……。
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