イジワル騎士団長の傲慢な求愛
病を理由に社交の場へまったく姿を見せなかったセシルに、これまで縁談の話が持ち上がったことなど一度もない。
病弱で世継ぎも満足に産めない嫁など誰も欲しがらないからだ。

封筒を受け取り差出人を見たセシルは言葉を失った。
封蝋には確かな印が押されていて、それが本物であることを示している。

「近々、この屋敷へ参られるそうです。正式に縁談を申し込むために」

「……嘘でしょう?」

「嘘なんかじゃないわ!」

シャンテルが興奮気味に捲し立てる。

「あのフランドル伯爵家から縁談の申し込みだなんて! セシル、あなたいったいなにをしたの!?」

その名をはっきりと口に出されてセシルは眩暈がした。

アデルをざんさん罵倒したルーファス・フランドル伯爵。
彼が、アデルの妹・セシルに婚約を申し込んできたのだ。

今この場に書状が届いているということは、昨晩にはこれをしたため部下へ持たせたということだ。
悪漢騒ぎがあったのは昨日の昼。その直後に送られたであろう婚約の申し込み。

そもそも、フランドル伯とアデルの出会いはけっしていいものとはいえない。というより、最悪といってもいい。
それを受けて、なぜその身内に婚約を申し込もうという考えに至ったのか。まったく理解ができない。

それも、その美貌から引く手あまたな姉のシャンテルならまだしも、社交場に立ったことすらないセシルに。
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