イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「セシル、あなたは社交の場にはいかないから知らないだろうけれど、フランドル伯爵家と言えば女性なら誰もがお相手を望む名家なのよ!? 領地は広大だし、経済は潤ってるし、なによりあの見目の麗しさ、格好よさといったらもう!」

興奮する姉とは反対に、セシルはさぁっと血の気が引いていった。
あの威圧的な男のプロポーズなど。セシルにとっては恐怖でしかない。
膝に力が入らなくなり、ついにはその場にへたり込んでしまった。

「大丈夫ですか、セシル様」

「やだ、セシルったら、腰が抜けてしまったの!?」

ふたりに助け起こされ、なんとかベッドの上まで辿り着いたセシルに、フェリクスは耳元で囁く。

「書状には、『先日、仮面舞踏会にお忍びで来ているセシル様を見て一目で恋に落ちた』とあります。セシル様が探している方なのでは」

セシルの顔がカッと紅潮する。

「あの、フランドル伯爵が……」

彼は探してくれていたのだろうか、『セシル』という名を持つ、漆黒の髪と瞳をした少女を。

それならば、アデルを見た彼がピンと来てもおかしくはないだろう。

特徴的な髪と瞳の色。そもそも同一人物なのだから、顔つきは同じだ。

同じ伯爵家なら、ローズベリー家の病弱な次女・セシルの噂くらいは聞いたことがあるかもしれない。
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