イジワル騎士団長の傲慢な求愛
なにかを言いかけたフェリクスの声を遮って、部屋の外から使用人たちのどよめきが響いてきた。

「大丈夫ですか!?」「ご無理をなさらないでください!」「お身体に差し支えます!」口々に聞こえてくる身を案じた声。

やがてドアの影からひとりの老齢の男が姿を現した。
白の混じった黒髪に同じ色の口ひげ。丈の長いガウンに身を包み、ステッキを使ってたどたどしく歩みを進めてくるのは――

「お父様!?」

「伯爵!?」

長い間、病に伏せ自室から出ることのなかった父・セドリック伯爵その人だった。

療養中、伯爵は娘たちさえ部屋に寄せつけなかった。
そのプライドの高さから、弱っている姿を見せたくなかったのだろう。
身の回りの世話をする侍女と医者、そして報告係のフェリクスしか部屋に入ることを許してはいなかった。

ずっとベッドの上だと聞いていたのに、ひとりでこの距離を歩いてきたのだろうか。
今や人が変わったかのようにやつれてしまい、こけた頬。
一年前に会ったときよりも十年分くらい年老いた気がする。

「大丈夫なのですか!? お父様!」

「お座りになってください、伯爵」

フェリクスはすかさず椅子を運んできたが、それを無視して、よろよろとした覚束ない足取りでセシルのもとにやってきた。
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