イジワル騎士団長の傲慢な求愛
案内した客間の入り口で、セドリック伯爵が待ち構えていた。
本当は部屋を出る体力などないのだが、最愛の娘の伴侶をこの目で見たいという強い意思が、伯爵の体力を後押しした。

また、さすがにアデルが出てくるわけにもいかず、本来であれば真っ先に挨拶しなければならない立場であるにも関わらず、この場に同席していない。
病を患って部屋から出れないということにしてある。

一家の代表が誰ひとりいない状態では締まりがない、セドリック伯爵が表に出て毅然と振舞っているのは、そういう思いもあるのかもしれない。

挨拶と軽いおもてなしを終えたあと。
セドリック伯爵はルシウスを連れて部屋から出て行ってしまった。ふたりだけで話がしたいそうだ。

フランドル家の家臣たちは早くも結婚式の段取りについて話し始めていた。
フェリクスが相手をし、結婚式と聞いて意気揚々とするシャンテルも話の輪に加わる。そんな様子を、セシルはテーブルの端でちょこんとしながら眺める。

ふと、客間に隣接したプレイルームへ目を移せば、退屈そうなルーファスが窓の外の庭園を眺めていた。

屋敷の裏の庭園は、この季節、ちょうど花が頃合いを迎え、色とりどりに咲き乱れ賑やかだ。
その様子をぼんやりと眺めながら、物思いに耽っているようだった。

そういえば、今日は一度もルーファスと言葉を交わしていない。
嫁ぎ先の主に挨拶のひとつもしないのはまずいだろう。
なにしろ、セシルとしては初対面なのだし。

セシルは結婚式の話で盛り上げる周囲を邪魔しないように、こっそりと席を立ってルーファスに近づいた。
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