イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「……なんのことでしょうか」

平静を装ってとぼけたセシルに、ルーファスは人差し指を突きつける。

「その胸のほくろは覚えているぞ。宮廷で襲われたとき、胸をさらしていただろう?」

思わずセシルは胸もとを隠した。
確かに左の鎖骨の下、大きく開いた襟からかろうじて見える場所に、小さなほくろがある。

慌てたセシルを見て、ルーファスが大きな声で笑った。

「わかりやすく素直な女だな。……冗談だ。そんな小さなほくろなど、いちいち覚えていない」

かまをかけられた、そう気づいたときにはもう遅い。結局、自分でばらしてしまったようなものだ。

「……このことは――」

「安心しろ。言わないさ。だがその代わり、どうして男の振りなんかしていたのか、説明しろ」

「それは……」

簡単に口外できるような内容ではなく、セシルは困惑した。
なにしろ、ローズベリー家消滅の危機と知れれば、下手をすれば婚約自体も解消だ。
けれど、弱みを握られてしまっては嫌とも言えない。

観念したセシルは、周囲に人がいないことを確認し、洗いざらい話した。

幼くして亡くなった弟・アデルに成り代わり、嫡男として振る舞ってきたこと。
これ以上、成り代わるのは無理と判断して、素直に縁談に応じたこと。
そしてこれから先、アデルに変装する気はなく、時期を見てアデルの死を公表するつもりであること。
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